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企業概要

企 業 拠 点 :北京市、中国
設 立 年 月 日 :2012年3月
資金調達総額 :約94億ドル
フ ァ ン ド ス テージ:Pre-IPO
リード投資家 :Sequoia China、SIG、SoftBank Vision Fund、KKR、General Atlantic、Tiger Global Management
従 業 員 数 :約150,000人

2017年にグローバル展開を開始したTikTokは、わずか数年で世界に10億人以上のユーザーを獲得し、デジタルカルチャーを大きく変革しました。その背後にいるのが、中国・北京に本社を置くByteDanceです。強力なAIレコメンデーション技術を武器に、情報過多の時代における新しいコンテンツ体験を提供してきたこの企業は、今や世界で最も影響力のあるテクノロジー企業の一つとなっています。

しかし、その成功の裏側には、深刻な課題も存在しています。政治的圧力、メンタルヘルスへの懸念、収益性の問題など、ByteDanceは巨大企業ならではの複雑な課題に直面しています。本記事では、ByteDanceが解決してきた課題、その独自性、そして現在直面している問題について詳しく解説します。

ByteDanceが解決してきた課題

ByteDanceは、AIレコメンド技術を軸に、情報過多社会における「適切な情報を適切な人に届ける」という根本的な課題に取り組んできました。

インターネット上には膨大な情報が溢れており、ユーザーが本当に興味のあるコンテンツを見つけることは困難です。ByteDanceは、この問題に対して革新的なアプローチを提供しました。ユーザーが興味ある動画に最短で辿り着ける体験を実現し、同時にクリエイターが適切な視聴者へリーチできる仕組みを構築したのです。

TikTokはこの理念を象徴する存在です。従来のソーシャルメディアがフォロー関係を基盤としていたのに対し、TikTokは最初から興味関心ベースのレコメンデーションを採用しました。これにより、新しいクリエイターでも適切なオーディエンスに届く可能性が生まれ、世界規模の動画配信市場が開拓されました。

ByteDanceの独自性:成功を支える4つの要素

ByteDanceの急成長を支えてきたのは、以下の独自性です。

機械学習型動画レコメンデーション技術が第一の強みです。ByteDanceのアルゴリズムは、ユーザーの視聴時間、いいね、シェア、コメントなどの行動データを学習し、個々のユーザーに最適化されたコンテンツフィードを生成します。この技術は競合他社を大きく引き離す精度を実現しており、ユーザーを引き付け続ける強力なエンジンとなっています。

TikTokと抖音という二層構造も重要な戦略です。中国国内向けの抖音(Douyin)と、国際市場向けのTikTokを別々のプラットフォームとして運営することで、各市場の規制や文化に柔軟に対応しています。この戦略により、グローバル展開とローカライゼーションの両立を実現しました。

クリエイター収益化モデルの構築も成功要因の一つです。広告収益、投げ銭機能、ライブコマース、ブランドとのコラボレーションなど、多様な収益化オプションを提供することで、クリエイターエコシステムの拡大を促進してきました。

エンタメ×AIの高速PDCA文化が企業全体を貫いています。ByteDanceは実験的なプロジェクトを迅速に立ち上げ、データに基づいて改善または撤退を判断する文化を持っています。この姿勢が、変化の激しいソーシャルメディア市場での競争優位性を生み出しています。

急成長を続ける業績

ByteDanceは2025年に約500億ドルの利益を記録する見込みで、中国のソーシャルメディア企業として記録的な業績を達成しています。2024年の売上高は約1,550億ドルに達し、前年比38%増の成長を示しました。国際事業、主にTikTokは390億ドルの収益を生み出し、前年比95%増という驚異的な成長を遂げました。

この業績により、ByteDanceは競合であるMeta Platformsに迫る収益規模を持つ企業へと成長しています。TikTokの成功が、ByteDanceの世界的な地位を確立する原動力となっていることは明らかです。

ByteDanceが直面している5つの課題

政治・規制問題:最大のリスク

ByteDanceが直面する最大の課題は、地政学的リスクです。中国企業であるという事実が、特に米国や欧州において深刻な懸念を引き起こしています。

米国では、TikTokの中国親会社ByteDanceとの関係が国家安全保障上の脅威とみなされ、議会は2024年に売却を求める法律を可決しました。米国の議会関係者や情報機関は、ByteDanceと中国政府との複雑な関係が、米国のユーザーデータへのアクセスを可能にする可能性があると懸念を表明しています。

中国の国家情報法に基づく政府との関係性、データ主権をめぐる議論、運営の透明性への疑念などが、ビジネスに直接的な影響を及ぼしています。一部政府機関ではTikTokの利用が禁止され、企業による広告出稿も抑制される事態となっています。

2025年12月、ByteDanceはついに米国事業の売却契約を締結し、Oracle、Silver Lake、MGXを含む投資家グループに運営権を譲渡することになりました。この新しい合弁会社では、米国および国際投資家が45%を保有し、ByteDanceは19.9%の株式を保持します。この決断は、数年にわたる政治的圧力の結果であり、TikTokが世界的成功を収めるほど、地政学リスクも増大するという現実を示しています。

アルゴリズム依存による負の影響

強力なレコメンデーションアルゴリズムは、ByteDanceの最大の武器である一方、重大な社会的問題も生み出しています。

中毒性の高さが最も懸念される点です。TikTokの頻繁な使用は、特に24歳未満のユーザーにおいて、不安や抑うつ症状の増加と密接に関連していることが研究で示されています。18歳から29歳の年齢層において、TikTok利用率が80%を超え、最も高い利用率を示しています。

若年層への精神健康影響も深刻です。TikTokは創造的な自己表現や仲間とのつながりの機会を提供する一方で、生活満足度の低下、特定の精神症状の「伝染」のリスク増加、問題のある使用パターンなど、青少年に対する潜在的な悪影響について懸念が高まっています。

検証不十分な情報の拡散も問題です。メンタルヘルスに関する誤った診断情報や治療法が、専門家による検証なしに広まるケースが報告されています。アルゴリズムが類似コンテンツを推奨し続けることで、エコーチェンバー現象が発生し、ユーザーの視野が狭まる可能性も指摘されています。

収益モデルの不安定さ

TikTokは膨大なユーザー数を抱えながらも、収益性の面では課題を抱えています。

InstagramやYouTubeと比較して、広告単価が依然として低い水準にあります。中国国外では課金文化がまだ未成熟であり、ユーザーのマネタイゼーションが十分に進んでいません。TikTok Shopは米国で90億ドルの売上を生み出しましたが、成長過程で費用が膨張しており、米国のTikTok Shopだけで5億ドル以上の損失が予測されています。

実際のところ、TikTokは売上規模の割に利益が薄い事業です。グローバル展開のコストと投資負担が大きく、短期的な収益性よりも市場シェアの拡大を優先する戦略を取っています。

人件費と投資負荷の増大

ByteDanceは多様な領域に積極的に投資しています。ゲーム、教育、VR、SaaS、エンタメ制作など、複数の事業分野に進出していますが、これらの投資が財務負担を増大させています。

ByteDanceはAIインフラに最大200億ドルを投資しており、これにはNvidiaチップへの70億ドルの支出が含まれています。中国国内では、AIチャットボット「豆包」(Doubao)を展開し、DeepSeekなどの新興企業と競争していますが、収益化に成功していない部門も多く存在します。

文化摩擦と企業組織課題

グローバル拡大に伴い、ByteDanceは内部的な構造課題にも直面しています。

中国主導の企業文化と欧米のビジネス慣習との間には大きなギャップがあり、倫理基準や労働環境に関する認識の違いが摩擦を生んでいます。特に米国やヨーロッパのオフィスでは、従業員の離職問題が指摘されており、グローバル企業としての組織文化の統合が課題となっています。

ユーザー・導入企業にとってのデメリット

過度なアルゴリズム支配

TikTokユーザーは、自分が主体的にコンテンツを選んでいるように感じますが、実際にはAIによって設計された世界の中にいます。このアルゴリズム主導の体験は、視聴内容が偏る危険性を孕んでいます。

ユーザーの興味や関心が細分化され、多様な視点に触れる機会が減少することで、世界観が狭まる可能性があります。特に若年層にとって、形成期にこうした偏った情報環境に晒されることは、長期的な影響をもたらす可能性があります。

依存・時間浪費リスク

TikTokは設計上、1動画が短く、終わりがない構造になっています。次々と表示される興味深いコンテンツは、ユーザーの注意力を奪い続けます。

スクロールをやめるための明確な区切りが存在しないため、気づけば数時間が経過していたという経験は多くのユーザーに共通しています。研究によれば、4年間にわたる高レベルのソーシャルメディア使用は、中高生の抑うつの増加と関連していることが示されています。若年層への影響は特に強く、学業や社会活動への支障が懸念されています。

ブランドリスク

企業にとって、TikTok広告は魅力的なマーケティングチャネルである一方、リスクも伴います。

コンテンツの評価が不安定であり、企業の広告が不適切なコンテンツの隣に表示される可能性があります。炎上リスクも高く、意図しない形でブランドイメージが損なわれる危険性があります。また、TikTokの中毒性や倫理的な議論に企業が巻き込まれる懸念も存在します。

機密情報の懸念

企業や政府組織は、TikTokアプリのデータアクセス権限に警戒しています。

アプリが端末情報、位置情報、連絡先などにアクセスできることから、機密情報の漏洩リスクを懸念する声が高まっています。その結果、多くの企業や政府機関がTikTokの使用を制限するケースが増加しています。

ByteDanceの未来:光と影が混在するフェーズへ

ByteDanceの未来には、大きな可能性と深刻な課題が同時に存在しています。

光の部分として、TikTok経済圏のさらなる拡大が期待されています。クリエイターエコノミーの成長、ライブコマースの普及、グローバル市場での存在感の強化が進むでしょう。AI研究資産の高度化も進んでおり、レコメンデーション技術だけでなく、生成AIや自然言語処理の分野でも競争力を高めています。

SaaS・BtoB領域への転換可能性も注目されています。ByteDanceが培ってきたAI技術やデータ分析能力は、企業向けサービスとしても価値があり、新たな収益源となる可能性があります。また、世界の文化形成力という面では、TikTokは既に音楽、ファッション、言語表現に大きな影響を与えており、この影響力は今後も拡大していくでしょう。

影の部分として、米国・EUの規制との綱引きは続きます。新しい米国合弁会社の構造が実際に法律の要件を満たしているかについて、専門家の間で懐疑的な見方もあります。データ保護問題は引き続き重要な課題であり、各国の規制当局による監視は強まる一方です。

利益性の課題も残されています。2024年の純利益は330億ドルに成長しましたが、利益率は27.7%から21.3%に低下しており、AIインフラへの投資とTikTok Shopのグローバル展開への補助金支出が影響しています。国境を超えた政治論争は、今後もByteDanceの事業展開に影響を与え続けるでしょう。


毎週水曜日、5社の注目スタートアップが登壇する
ピッチイベント!earthkey pitchのご案内

イベント概要

earthkeyが主催するオープンイノベーションイベントです。
業界業種にこだわらず、毎週5社の新進気鋭のシード・アーリーステージのスタートアップ企業が、事業会社との共創や投資家との出会いを目的に登壇します。業界を越えた業務提携や資本提携など毎回数々のマッチングが生まれる場です。事業会社の方は参加いただくことで、自社の新規事業の推進や自社課題(ワークフローのデジタル化など)の解決、クライアントへの付加価値提案などのアイデアを得ることができます。当イベントは、業界業種に縛られないセレンディピティ(偶然の出会い)の場を大切にしています。

相性の良い参加者像

・事業会社(新規、既存事業推進者・経営企画室)
・ベンチャーキャピタル
・コーポレートベンチャーキャピタル
・メディア関係会社

*過去参加企業(敬称略)
伊藤忠商事、三井物産、NEC、三井住友FG、みずほ銀行、凸版印刷、電通、JCB、フジテレビジョン、
​三井住友海上、京セラ、楽天、日清紡HD、東芝、ALSOK 、GMOTECH、
京浜急行電鉄、東京建物、富士通、DNP、参天製薬、等

タイムスケジュール

15:45- zoomLIVE配信開始
15:50- イベント運営紹介、ピッチ概要説明
16:00- 1社目
16:11- 2社目
16:22- 3社目
16:33- 4社目
16:44- 5社目
16:55- クロージング
17:00- 終了

参加(視聴)費用

・無料

イベントについての注意事項

※登壇企業さま・弊社との事業が競合する企業さま、
事業会社に属されていない方からのお申し込みをお断りする場合がございます
※タイムスケジュールや登壇社は予告なく変更になる場合がございます
※参加者の企業名・部門名のみ、プレゼンテーションの質向上のため登壇企業さまへ共有することがございます
※本イベントはZoom(ウェビナー)を活用したフルオンラインのLIVE配信となります為、当日配信品質の問題が発生する可能性がございます。何卒ご了承くださいませ

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